コーポレートガバナンス
更新日:2024年9月27日
価値創造を支える取り組み 社外取締役×人材開発担当 座談会
ミネベアミツミは『従業員の力を最大化』をどのように目指すのか
当社のマテリアリティの一つである『従業員の力を最大化』をどのように目指していくか、社外取締役の松村氏、芳賀氏にお考えを伺うとともに、人事総務部門副部門長の石田、人材開発部次長の有馬との意見交換が実施されました。
社外取締役 松村 敦子
社外取締役 芳賀 裕子
人事総務部門副部門長 石田 可奈子
人材開発部次長 有馬 裕美
初めに近年の当社の人材戦略の取り組みについて、社外取締役として、どのように評価されていらっしゃいますか。
松村:当社では人材戦略を近年の重要な取り組みテーマの一つと位置づけ、企業価値向上と高い経営目標達成に向け、時代の要請に対応しつつ既存の戦略を補完・強化する形で意欲的に進めてきたことを高く評価しています。
私が社外取締役に就任した2018年はグローバル志向でチャレンジする人材の育成、女性活躍推進、従業員の多様な働き方などが目標とされました。2019年にはサステナビリティ推進部門新設を機に、当社のマテリアリティが特定され、人材面では従業員の安全と健康、働きやすい職場づくりとともに、当社で重要性を持つグローバル人材育成への取り組みが強化されました。2020年には、当社の女性活躍推進プロジェクト発足を機にダイバーシティセミナーが開催され、私は基調講演を担当しましたが、若手女子社員に大きな刺激を与えるような当社女性管理職によるパネルディスカッションも実施されました。2021年にはダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進が掲げられ、多様な人材の受け入れと認め合い、それを促進する職場づくりが強化され、さまざまな人材が交わる場の拡大による新たな価値創造が重視されるようになりました。
以上の流れのなかで、当社の人材戦略は着実に進化しており、今後の展開を注視しています。
2029年3月期の売上高2.5兆円、営業利益2,500億円、さらに100周年に向けた長期目標を実現するために、どのような人材戦略を進めていくのか、具体的な取り組みについてお聞かせください。
当社が求める人材を獲得し、発掘し、育成し、適切に評価・処遇するという一貫した人材マネジメントのしくみを効果的に運用することで、個々の人材が最大限に能力を発揮し、チームとなってすばらしい成果を創出できるしくみを構築する、それが当社の成長を加速させるための人材戦略です。
芳賀取締役、当社の人材の特徴についてどのような印象をお持ちでしょうか。
芳賀:当社には3つの強みがあると思います。一つ目は海外で活躍できる人材が豊富で、長年にわたって、着実に国際人材を育ててきたことです。
二つ目は新たに仲間に加わった人材との融合、外部の風を取り込むのに長けている点です。なぜできたのか。それは新たな仲間に対して、当社の戦略、存在意義をきちんと伝え、双方の強み、弱みを互いに認め合い、他社の強みを積極的に取り込もうとする姿勢によるものと思います。例えば、先日、ある会議でエイブリックのチームビルディングの成果が紹介されていましたが、こうした好事例をどのように全社的に取り込めるか常に前向きに取り組まれています。
三つ目は、社内で不足していた分野で、外部からも積極的に人材を受け入れ、その方たちが相応のポジションで重要な役割を担って活躍している点です。能力を発揮していただくために、当社が目指す方向とそれに向けてどのような活躍を期待するかを明確に誤解のないよう伝える努力をされているのだと思います。
一方で、Z世代など次のジェネレーションへの対応は課題だと思います。Z世代は自己実現の場を求め、合わないと思えば次に移りますし、コミュニケーション手段もさまざまですが、多様性への理解はある世代なので、こうした世代にも受け入れられる人事制度をどうやって作っていくかが重要なテーマだと思います。
当社にこれから求められるリーダー人材像と人材開発部での取り組みについてお聞かせいただけますか。
:長期的な展望をもって事業を俯瞰し、どのような事業機会があるか、その機会を効果的にいかすためにどのようにしたらよいか、社会的課題を解決するために当社がどのように貢献できるかを考え実行するリーダー人材を育成するとともに、外部から積極的に獲得してまいります。
有馬:人材開発部は、当社の100周年時代を支えていく人材の確保、育成のために2013年に設立されました。次世代を担うリーダーを育成するために、30代~40代の優秀な従業員を対象に、事業戦略を体系的に学ぶ研修を実施したり、米国コロンビア大学に客員研究員として派遣したり、また容易に達成できないチャレンジングな目標に取り組ませるなど、リーダーとして構想力を磨き、視野・視座を高めていただくためのプログラムを継続しています。
技術やノウハウの継承にはどのように取り組んでいかれますか。
有馬:社内の技術者が保有している技術スキルの棚卸しと能力開発を目的としたスキル認定制度を運用しており、特に若手中堅技術者の育成に活用しています。ミツミ電機では、若手でポテンシャルの高い技術系従業員に技術経営の基本知識から取り組む研修を実施しており、これをミネベアミツミに横展開しました。技術者の強化が当社の成長戦略と密接に関わりますので、ものづくりの知識や技能を継承し、さらに進化・成長させる取り組みを強化していきます。
当社の特徴である多様な人材に対する人材マネジメントについて教えていただけますか。
:当社の成長を支えてきたシニア世代から当社のDNAを30年後の当社100周年を支えるZ世代に引き継ぎ、Z世代人材が最大限に活躍できるようにしたいと思います。多様なニーズを持つ人材を支援する施策はさまざまですが、軸となる一貫したしくみが必要です。現在整備している人事データベースにより、人材を適切に評価し、適切なコミュニケーションにより効果的な育成に結びつけ、自己開発や自律的なキャリア開発につなげていくしくみを効率的に運用することができるようになると考えています。従業員、特に管理者がこの考え方・しくみを正しく理解し、効率的に活用できるような教育を継続的に実施しています。
松村取締役、これから当社が進めていく人材戦略についてのお考えをお聞かせください。
松村:当社の100周年を見据えた人材戦略のなかで、リーダー育成、専門人材育成、グローバル人材育成という形での投資により、人的資本の充実をはかることが重要だと考えます。人材マネジメントの効率化で高い能力を持つ人材を育成し、イノベーションを生み出す力に結びつけることが大切だと思います。
一方で、従業員エンゲージメントを向上させ、当社発展のために力を最大限発揮していこうとする各社員の意志を強める戦略も重要で、ワークライフバランスへの配慮等を通じて、心身の健康と幸福、いわゆるウェルビーイングを実現するような施策も期待されます。
製造技術・スキルの継承は、高度技術による差別化製品製造をおこなっている当社にとって最重要課題の一つと考えています。各製品製造のノウハウをさまざまな形で発展的に継承し進化させていくことができる人材育成が重要であり、今後の当社の取り組み強化に期待しています。
芳賀取締役、人材育成、次世代リーダー層の育成に向けて、当社が取り組むべきことや課題についてどのようにお考えでしょうか。
芳賀:当社はどういう戦略を目指すのかが先にあり、それを実現させるリーダーの資質として、社内だけではなく、外の世界や外部環境の変化をみながら、自分のチームにリーダーシップを発揮できるかが重要と考えます。世の中に出る前から、アンテナを張り、今どこで何が起こっているのか、常に自分から外に向かって情報を探しにいくような人材が必要ではないでしょうか。
次世代リーダーの育成に向けては、次の世代をどう活用していくかがキーになりますが、企業側がテクノロジーの変化にあわせてリーダーシップを発揮できるようなツールや手段を提供していくことと、世代が変わっても変えてはいけないことは何なのかをトップマネジメントでしっかり議論して、共通理解を深めていくことも重要と思います。
当社が成長してきた背景や根幹となっているような、世代が変わっても変えるべきでないものはたくさんあります。一方で、今までこのやり方で成長できたのだからこれで良い、これまでの社内の常識が今後もずっと常識だ、と考えてしまうと、外の変化についていけなくなります。本当に変えるべきものは何で、守るべきものは何かをしっかり議論していただきたいと思います。
当社のD&I推進の最近の取り組みについて教えていただけますか。
有馬:グローバル企業である当社は、製品も工場も人もすべてが多様であり、技術革新や相合活動の源泉はこの多様性にあると考えています。グループ連結で10万人の従業員のうち女性従業員比率は63.5%、女性管理職比率は16.4%を占めております。一方で、国内に目を向けるとまだまだ女性活躍の場を広げる余地があります。
両取締役にもアドバイスをいただきながら、2年前に国内グループ4社でプロジェクトを立ち上げ、一つ目として、社内での風土の醸成や意識変革への取り組み、二つ目として女性の積極採用への取り組み、三つ目として、性別を問わず仕事とプライベートを両立させて、長く活躍できる職場環境づくりに取り組んだ結果、2021年に「えるぼし」の3段階目の認定、そして今年は「くるみん」の認定を得ることができました。直近では、管理職全員を対象にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)や心理的安全性をテーマとする研修を実施したところ、想像以上の反響がありました。新たな価値創造のためには、多様な意見を受け入れることが基本であると改めて感じました。
両取締役は、こうしたD&Iの取り組みをどのようにみられていますか。
松村:当社のD&I推進は、広い意味での人材多様性と相互理解により新たな価値創出につなげる活動で、人材面での相合による相乗効果で多様なアイデアが生まれ、当社の成長に大きく貢献することが期待されます。イノベーション実現、品質管理の効果的推進など多くの成果が得られ、当社のESGの取り組みにもよい影響が広がります。そのため、さまざまな形でD&Iを進めていくことが当社の価値向上にとって不可欠です。
女性活躍推進では、当社単体での女性管理職比率が低い状態ですが、人材開発部の取り組み等を通じ当社で女性管理職が若手女性社員のロールモデルとなり、この比率が高まることを期待しています。国籍の多様性では、当社グループ全体で海外従業員比率が非常に高く国際色豊かな人材に恵まれています。社外取締役にも事業部門会議等で外国人管理職と接する場があり、今後こうした機会をいかして外国人との意見交換もおこなっていければと思います。
芳賀:以前、障がい者雇用について研究していた時期にわかったことは、「本当に必要なサポートは何かを知っているか」という視点も重要だということです。「女性が活躍するにはどんな支援が必要なのか」ということから女性活躍がスタートしたように、障がいを持った方にも同じことが言えるのではないでしょうか。当社はもともと多様性に対する理解がある会社なので、障がいを持ちながら活躍されている方も含めて、どういう状況の人たちにどういう支援が必要なのかをとりまとめていくような進め方で良いのではないかと思っています。これも一つのインクルージョンという意味で重要だと考えます。
次に効率的・自律的に働ける職場づくりや安全・健康促進への取り組みについてお伺いします。まず、来年は新東京本部ビル(ミネベアミツミ東京クロステックガーデン)へ移転される予定ですが、この狙いを教えていただけますか。
:新東京本部ビルには優秀な人材が集い、人材の相合・協創により技術の相合を促進する当社グループの相合活動の中核拠点となります。相合・協創の推進策として、最先端のテクノロジーの活用や地域社会・地球環境との共生を促進する施策を講じる他、多様な人材が生き生きと仕事に取り組み、思う存分パフォーマンスを発揮できるような職場環境・カルチャーを醸成することで、相合の効果をさらに高めるしかけを作ってまいります。こうした施策が当社の経営戦略の実現を加速化していくものであると考えています。
両取締役はこの移転にどのような期待やご意見を持たれていますか。
松村:取締役会での議論を通じ、快適空間と充実した設備の提供による社員の生産性と満足度の向上を通じた利益拡大効果を期待しています。特に、社員同士の自由な意見交換を活発化させ、アイデアを出し合うことで仕事へのモチベーションが高まり、イノベーション創出につながることが大いに期待されます。また、部署を超えた社員同士の対話の活発化で、女性活躍、チームビルディングの取り組みなどさまざまな情報交換が可能となり、人材面での複合的な相合効果が発揮されて効果的な課題解決にもつながると考えます。
さらに、社員がお客様とじっくり対話できるようなスペースが設けられることで、お客様との意見交換を通して最適な製品を提供でき、顧客満足度の向上と事業の充実をもたらす効果が期待されます。
芳賀:取締役会でもこの移転の相合活動への期待効果について意見交換させていただきましたが、効果を達成するためには2つのポイントがあると思っています。
一つ目はハード面で、ある大学では同じ研究棟には異なる分野の研究室が入れるようにし、廊下の壁にはホワイトボードがあり、異なる分野の研究者とも自由に会話が生まれるといった環境が用意されています。米国ではよくあるしかけですが、こうしたオープンな活動ができるような工夫を期待しています。二つ目は、部門や社内に閉じない、自ら外へ出ていこうとする社員にインセンティブが出るようなソフト面でのしかけも必要と思います。例えば、就業時間の一部は外部活動に使って良いというようなインセンティブもあるのではないでしょうか。
新東京本部ビルには大きな可能性があると思いますので、さまざまな取り組みを検討していただきながら、相合活動の充実につなげていただければと思います。
"人材の相合"という言葉がキーワードになっていますが、相合活動の具体的な取り組み状況はいかがでしょうか。
:人材の相合を促進する施策として当社が力を入れているのはチームビルディング活動です。以前から小集団活動として部署ごとにさまざまな取り組みが行われてまいりましたが、2019年から制度として統合し、全社的な活動をスタートさせました。この3年間で、生産性向上やコスト削減を中心に各部署が工夫してチームビルディング活動を進め、大きな成果が生まれるようになりました。次の課題は、部署や地域など既存の枠組みを越えた活動を活性化し、よりダイナミックな成果を創出することです。そのために、チームの新たなチャレンジを促進するようなしかけを講じてまいります。
職場づくりにも関連する安全や健康促進面についてはいかがでしょうか。
有馬:従業員一人ひとりが誇りを持ち、健康で生き生きと活躍し、能力を最大限に発揮できる働きやすい職場環境づくりに積極的に取り組んでいます。海外の量産拠点はISO45001の認証を取得し、安全にものづくりができる環境を整えています。国内では2019年に65歳定年制を導入しました。経験やノウハウが豊富なベテランの従業員が知識やスキルを若い世代に伝えていくためにも、定年まで生き生きと働けることが大切であると考えています。社員食堂ではヘルシーメニューを提供するほか、新東京本部ビルではフィットネスやマッサージルームも用意する予定です。心の健康については、従業員が自由にカウンセリング相談できる窓口を用意しています。直近では、経済産業省の健康経営の優良法人2022に認定されました。引き続き、従業員の健康増進の取り組みを強化してまいります。
『従業員が生き生きと働くための多様な働き方の実現』に向けて、どのような取り組みを期待されていますか。
松村:従業員が高いモチベーションを維持して当社への貢献度を一層高めるためにも、適切な働き方改革の施策が重要です。出産・育児や介護、仕事以外の活動、自身の心身面での問題など、従業員は皆異なった制約のなかで勤務しており、社員のワークライフバランスが保たれるようなさまざまな選択肢の提供が必要と考えます。
当社グループでは国内海外ともに、従業員は高い愛社精神のもと経営理念をよく理解して生き生きと力を発揮しています。こうした質の高い人的資本を活用した人材面での相合がさらに高い効果をもたらすため、取締役会の場でも働き方の多様性に関する議論もおこなっていければと思います。
芳賀:これらに加えて、長時間労働の管理も重要です。もし「一生懸命働く社員は長い時間働く」という認識があれば、会社にとって大きなリスクになると思います。なぜ健康経営が重要なのでしょうか。アブセンティズム、プレゼンティズムといって、病気になって欠席することによる非効率と体調が悪いのに出社している非効率という両面から企業にも損失が生じることが多くの事例として研究されています。当社のなかで、見えないところでそのようなことが生じていないかというモニタリングもお願いしたいと思います。
『従業員の力を最大化』を目指す取り組みについてご意見をお願いします。
松村:「従業員の力を最大化」する目的は当社の高い目標を達成することにあり、全社員が能力を最大限発揮することで当社の業績を大きく向上させ社会貢献を高めることができます。そのために会社として人材育成・教育をおこなう一方で、全力投球を促す働きやすい職場提供が重要です。働きやすい職場づくりでは、従業員の声に耳を傾けることも大切で、例えば、人材開発部が社内各所に意見箱のようなものを設置し、社員に自由な投稿を促し、さまざまな意見を集めて傾向を分析し、その結果をいかして可能な限り柔軟に対応することも必要と考えます。全社員がワークライフバランスを保ち、やりがいを感じながら力を最大限発揮できる魅力的な職場の実現に向けて、私もしっかりサポートしていきたいと考えています。
芳賀:企業側からみた目線で「従業員の力を最大化」するということは、従業員にとっては「ここは自己実現できる場所なのか」という問いに変わってくると思います。優秀な社員の方々が長期にわたって当社で自己実現できるような人事制度や文化の醸成が必要で、その環境を経営サイドが提供し、社員がそれに応えていく、これが信頼関係を築くということだと考えています。今後とも多くの施策が実行されると思いますが、その結果を可視化して定期的なモニタリングを是非実施して、取締役会にも定期的にフィードバックいただければ、さまざまなリスクマネジメントもできるのではないかと考えます。
:当社のDNAを継承しながら新たな強さを具(そな)えた独自の組織文化を醸成し、従業員がそれに共感することで行動に魂が宿り、目標に向かって一丸となって突き進む。そんな組織であり続けるために、当社らしさを大切にしつつ大局的な視野を失わず、社内・社外を含むまわりの皆様の声を聴きながら、人材をいかすしくみを進化させてまいります。
当社の社外取締役からは執行の監督のほか、専門性のある知見や高度な経験に基づく多くの貴重な助言もいただいています。当社はこうした貴重な助言も取り入れながら、多様な人材の「相合」による成長を加速させていきます。