コーポレートガバナンス
更新日:2024年9月27日
人的資本 座談会(2024年7月)
さらなる成長のために「社員の力」をどのように引き出していくのか
取締役社長執行役員 COO&CFO 吉田 勝彦
社外取締役 松村 敦子
社外取締役 芳賀 裕子
社外取締役 片瀬 裕文
人事総務部門副部門長 理事 加藤 素樹
2023年4月から始まった貝沼由久会長CEO(以下、貝沼会長)と吉田勝彦社長COO&CFO(以下、吉田社長)の二人三脚体制は、丸1年を経過しました。当社マネジメントが重要な経営課題の一つとして注力している人材の育成・強化に対し、この1年間さまざまな取り組みがおこなわれてきました。そこで、吉田社長と社外取締役である松村敦子氏、芳賀裕子氏、片瀬裕文氏の他、人事総務部門副部門長として人材開発を担当する加藤素樹理事(以下、加藤理事)を交え、「社員の力」をどのように引き出していくのかといった人的資本の活用をテーマとして、人材戦略や具体的な人事施策、従業員エンゲージメントサーベイの結果等について、意見交換を実施しました。
人材戦略を重視している背景と、認識している課題をお聞かせください
吉田:当社は世界に一つしかない「相合精密部品メーカー」として、 2029年3月期売上高2.5兆円・営業利益2,500億円を長期の経営目標として定めています。また2029年3月期を通過点として、さらにその先も持続的に成長していくための土台を確固たるものにしていくことが必要です。そのためには、経営陣のサクセッションを含めた次世代のマネジメント人材の育成が最大の課題の一つになると考えます。
部品製造会社である当社は、会社の基本的な体制として、売上高規模が数百億円から2千億円前後までの多種多様な部品を製造する事業単位(事業部)で構成されています。2029年3月期の経営目標達成に向けて、M&Aも含め「8本槍」を中心とした各事業部単位での成長を目指していくことになります。しかし成長に伴い事業部の規模が相応に大きくなると、同一事業の中でも、様々な製品や市場、技術が必要となり、製品や市場毎に合った事業運営が求められます。また、ものづくりの手法や思想も異なった運営が必要となるため、結果として事業部を最適な領域に分割し、その数を増やしていくことが必要になります。
あるコンサルタントと話をしたときに、現代のビジネスでの競争を戦(いくさ)に例えると、戦(いくさ)の雌雄を決するのは、会社全体の総力戦ではなく、細分化された各競争分野における局地戦で勝つことだと説明されました。これを当社の事業に当てはめると、局地戦とは、各事業部による戦(いくさ)であり、当社全体の勝敗は、その局地戦を担う各事業部の結果の積み重ねで決まることになります。つまり経営目標の達成には、全ての事業部がそれぞれ成長し、事業部を増やしながら、利益率を向上させていくことが不可欠との認識です。そうした局地戦を率いるのは事業部長であり、その役割と責任が非常に重要になってきます。従って事業単位を率いる事業部長となる人材の数の確保と質を向上させておくことが、人材戦略の起点になります。
その上で、その事業部長のなかから、関連した事業部を束ねる事業本部長(以下、本部長)を選抜していくことになります。当社の事業本部はカンパニーのようなものであり、本部長の役割には、重点事業領域へのリソースの集中投入や、苦戦している事業があればそのテコ入れを事業部の枠を超えて差配していくことなどが求められます。これをスケールアップしたものがミネベアミツミ全体になると考えられますので、事業部長や本部長となる人材の育成、強化が将来のサクセッションに対する重要な施策としてつながってきます。
現在の経営陣は、貝沼会長のリードによるこの十数年間での当社の目覚ましい成長プロセスを、ビジネスの最前線で一緒に体感してきた経験を有しています。次世代のマネジメント人材にたとえ高い能力があったとしても、この経験差を埋め合わせることは大変難しいと考えます。従って、トップも含めた経営陣のサクセッションを見据えると、次世代のマネジメント人材育成のなかでも、本部長となる人材の育成が、非常に困難ではありますが、最も重要な施策になると考えられます。
人材開発を担当する加藤理事に昨年10月に入社頂いた経緯についてお聞かせください
吉田:現場の人材育成も非常に重要ですが、これまで当社では、特に製造現場を重視するDNAがあり、工場でのOJTを中心に人材育成をおこなってきました。しかしながら今は、コミュニケーション能力などの対人スキルや、DXなどの広範な知識が必要になってきており、これらの習得には、現場のOJTだけでは限界があると感じています。このような課題に対して、当社の生え抜き社員であると、当社が今までのやり方からなかなか脱皮できないと考え、外部から加藤理事に入社して頂き、主に人材開発を担うCHRO的な立場で当社の実態を新たな目で俯瞰し、取り組んでもらうことにしました。
加藤:人事総務部門副部門長として入社し、1年弱が経過しましたが、私が社員の皆さんとの対話や工場を訪問して感じたことは、社員の方々は、やはりものづくりが原点という思いが強く、ものづくりに対して真摯に、そして本当に真剣に取り組んでいる方が多いということです。これまで当社はトップダウン経営でスピード感を持って事業を成長させてきましたが、トップダウン経営の良さをいかしつつ、社員のものづくりに対する直向きさや、社員一人ひとりの自発性や創造性をいかすボトムアップの要素も積極的に取り入れ、組織全体をより活性化させていければと考えています。
今の外部環境を踏まえると、人口減少が進んでおり、これは当社だけの問題ではなく、多くの会社でも人材の確保が難しくなってきていると感じます。資金がなくて経営ができないという時代から、人材が不足して経営ができないという時代に変わってきているのではないでしょうか。特に人的資本の所有者は、会社ではなく、あくまでもそれぞれの個人にあります。お金やモノといった経営リソースとは異なり、人(ヒト)というリソースは、"意思"や"意欲"を有するため、経営者が動かそうとしても、社員が会社のために自分という資本を使おう、つまり自分の能力を発揮しようと思わないと、なかなかワークしない難しさがあります。だからこそ会社と個人の関係性を意味する「従業員エンゲージメント」が重要であり、機関投資家からもますます注目され、人的資本に関する情報の積極的な開示が求められてきているのだと思います。
当社の置かれている現状と課題を踏まえ、具体的にはどのような人事施策をおこなっているのでしょうか
吉田:冒頭で申し上げた通り、最も重要なのは、事業部長と事業部を統括する本部長候補者の育成です。そして各事業部を担う「人」をそろえ、それに続く若手人材を強化しなければなりません。そこで昨年度より3階層で構成されるコア人材の育成プログラム(以下、「3層プログラム」)を導入し、人材プールを形成する研修体系を整備しました。そのなかで、本部長候補者を育成する Next Leaders Program(以下、NLP)をスタートできたことは、大きな成果の一つと考えます。
3層プログラムでは、貝沼会長を含め、現経営陣が実際に講義もおこないます。そしてこれがポイントになりますが、特にNLPでは、ポテンシャリティーを持った人たちに、OJTとして実際のポストに就いてもらいます。つまり座学と並行しながら、指揮官として必要なスキルと経験を多面的に体得することが、育成プログラムの中心となります。
他方、ボトムアップによる施策もおこなっています。一つ目として、昨年6月に国内主要グループ会社に対し「従業員エンゲージメントサーベイ」を初めて実施しました。グループ内での人材や組織に対する現状の課題を把握し、その分析結果に基づいた実効性のある改善計画を策定、実行することを開始しております。二つ目は、当社の重要な取り組みの一つである「相合」です。これまで出会う機会がなかった従業員同士が結びついて新しい企業文化をつくり出すことをコンセプトとして、汐留のオフィス内の施設などの設計を工夫しております。
3層プログラムへの期待や、この取り組みをおこなう際に重要だと思うことを教えてください
片瀬:3層プログラムは、当社には必須と思いますし、体系的に進められていることは非常に素晴らしいことですが、今後は、コンテンツと運用が重要になってくると思います。まず選抜された社員の方々は、会社のなかで認識共有されているという理解で良いのでしょうか。リーダー育成は透明性を確保し、正々堂々とおこなうべきだと思います。組織のリーダーというのは、やはりお互いの横のつながりで切磋琢磨し成長するものです。私は旧通産省出身ですが、例えば旧通産省で一番有名な制度に「法令審査委員会」という制度がありました。それは各局筆頭の課長補佐、年齢で言うと40歳前後のなかで選ばれた人たちが委員になるのですが、その審査委員が絶大な権限を持っていて、旧通産省のあらゆる政策は、法令審査委員会で同意されないと、大臣でさえも決めてはいけないという制度になっていました。各局の予算編成も、全部その委員たちだけで決定するという制度になっていて、40歳の課長補佐の時点で、大臣と同じぐらいの意識で取り組むことができる分、徹底的に責任も負わされるし、鍛えられる制度であって、それが旧通産省の活力の源泉だと長らく言われていました。ただ私が申しあげたかったのは、そこまで権限を持たせるべきという話ではありません。そうではなく、同じ責任感をもつ横とのつながり、横との議論ができる場をつくるということが、リーダー人材の育成にとっては、意味があると思っており、だからこそ、選抜された社員の方々を、正々堂々とみんなが知っている必要があると思うのです。一方でそうした運用には、不満も出ると思います。不満が生じたら、それを丁寧に説明し、みんなを納得させることが、マネジメントとしての役割でもあり、従って経営層には、強い覚悟が必要になると思います。
次に、リーダー獲得やリーダー人材の育成も底上げが必要で、それは若手ポテンシャル人材層(以下、HIPO層)より、もっと下のところから始めるべきではないかと考えます。若い人たちのなかでも、リーダーになりたいという強い意欲がある人には、財務や人事、技術など自分で会社を経営することと同じ知識やスキルセットを習得できるよう、積極的に学びの場や環境を与えるということが重要になってくると思います。それから、より大局観を養うという意味では、地政学的な環境への理解や、これから一番インパクトがありそうなAIについての知識も必要であり、そうしたいくつかのスキルセットの習得を積極的に希望する人や、将来のリーダーになりたいという若手の人たちに対し、そうした内容を勉強する機会をぜひ設けて頂ければ、結果的に将来のリーダー人材の底上げにつながっていくと思っています。
吉田:1点目に、透明性の確保については、昇進のスピードや、あるいは色々なチャンスやポストの獲得によって、次世代人材の存在が明らかになることで、この人たちは選抜された人たちであるという認識は、全体としては浸透してきているのではないかと思っています。リーダー間の切磋琢磨については、実際に選ばれた人たちが同じセッションでずっと一緒に過ごしていくので、プログラムの過程で横のつながりが構築されると期待しています。またプログラムの最後には、貝沼会長や私の前で「MYパッション」を披露する場を設けており、これから自分は何を成し遂げようとするかをお互いに発表し、横を意識できる仕組みになっています。
2点目に、底上げという意味では、第3層にあるHIPO層も、実は選抜制で、いわゆる論理的思考能力の高さや本人のキャリアプランの確認をおこなっています。また1回目の選抜には選ばれなかったけれども、2回目以降に再度挑戦のチャンスを設けていくようなことも強く意識しています。そういう志がある人たちは、恐らく強い意志があるので、そうした人材をしっかり吸いあげていかなければならないと思っています。しかし同時に、より若年層を対象に底上げしていく必要性については、今後の重要な検討課題として理解しました。
加藤:「MYパッション」ですが、自身の過去の経験を振り返り、自身を突き動かす「情熱」の源泉を再発見し、それに基づいてリーダーとして何を成し遂げたいかを考えるプログラムで、3層プログラムに参加している者を対象に開始しています。参加者同士によるお互いの「MYパッション」の発表は、自分の本質を皆にさらけ出すことによって、お互いがより深く知り合うこととなり、非常に盛り上がるので、横のつながりが広がることになればと思います。
片瀬:横のつながりを、どう持続的につないでいくかという点では、研修の時だけではなくて、その後の日常でも大事であり、それが会社全体の経営の質をあげることにもつながると思うのです。定期的に何らかの形でメンバーが集まり、話し合いをする場を組み込むことも重要ではないかと思います。
次に、今回実施した従業員エンゲージメントサーベイの結果について感じたことや、何を重視して今後の施策をおこなっていくべきなのかお聞かせください
芳賀:従業員エンゲージメントサーベイを初めて実施したことや、サーベイ結果に基づき何をすべきか、社内での検討をいち早くスタートさせ、具体的な改善計画の策定に着手されたことは、とても有意義で重要なことだと思います。
今回、明らかになった当社の強みとは、「経営理念への共感」や「当社が掲げるゴール・目標への理解」の浸透でした。これは常日頃から、トップが社内外に対して強いメッセージを発信し続けた結果であり、社員が経営理念を理解して何を目指すかというところを、しっかり共有できていることの証だと思っています。しかし少し別の見方をすると、経営理念は理解しているものの、それをどう実践していくのかが分からず、自分事としてどのように自発的に行動を起こすかが、まだまだ明確になっていないのかもしれません。あるいは行動を起こしたくても、起こすことに何らかの課題があったり、また自ら提案して行動を起こしづらい企業風土が課題であることも明らかになりました。職階別で見れば、これまで当社の成長を牽引してきた高い職階の人のエンゲージメントのスコアは比較的高く、ゆえに、今までのトップダウンのやり方が受け入れられ、結果として急速な成長をずっと続けることができたのではと理解しています。一方で若い人たちのエンゲージメントは、課題があることも明らかになりました。
また今回は初回だったので、国内のみで実施されましたが、当社の重要な人材は海外にも多く駐在しています。従って今後は、このようなサーベイを、海外駐在員に対しても実施して頂きたいと思います。特に、本部から遠い事業所や規模の小さな事業所では、エンゲージメントのスコアが低くなるというのは、他社でもよく見受けられる現象です。そのため、やはり事業所ごとの差分の分析は非常に重要であり、それは事業部の文化の違いかもしれないし、扱っている商品などの違いかもしれないなど、色々な理由が想定されますが、そうした多角的な分析を期待したいです。またエンゲージメントサーベイは、1回きりだけでなく、今後も継続して実施して頂きたいと考えます。サーベイを毎年実施することで、部門や職階別の結果がどのように変化していっているのか、その年、その年ですぐにアクションプランを考えますので、それが次年度にどのぐらい影響を与えているのかを把握し続けることが重要であり、その経年変化をフォローして、持続的に改善をはかっていくことも重要だと思っています。
加藤:エンゲージメントサーベイについては、今後は毎年実施していきたいと考えます。
芳賀:それから、エンゲージメントサーベイの結果は、企業のリスクマネジメントにも直結します。エンゲージメントのスコアが低い事業所では、コンプライアンス問題が発生するということがよくあります。エンゲージメントが低い組織では、コンプライアンス意識も低いという傾向がありますので、その辺りも含めてサーベイの結果をよく分析して頂きたいと思います。
また、今回人材の育成計画が新たに作成されていますが、重要なのは誰を昇格させるのかという登用基準を見直すことだと思います。折角色々な人事制度を作って、360度評価などを導入したとしても、最後に誰を昇格させるのかというのが、従来の考え方と同じ判断基準で運用されるのであれば、結局過去の繰り返しとなり、余り意味がありません。今後の企業価値を高めていくためには勤続年数に関わらず、どういう人材が必要と経営層が考えていて、逆に社員はどのような会社であって欲しいと考えているのか、両者の観点を客観的に見ることができる外部専門家の目線も入れて、本件は議論していく必要があると感じています。
加藤:来年度の人事制度の改定を見据えて、社外の専門家や、社内の営業・技術・製造のそれぞれからマネージャー層・女性・若手などのバラエティーあふれるメンバーを集め、人事制度改定プロジェクトチームを発足させました。当社の人材の強みや「目指す人材像」、そしてそのような人材の集団を形成できるような人事制度の在り方の議論をまさに開始したところです。
芳賀:先ほどの3層プログラムのトップ層の人たちに対しては、いま相応な施策が進行していますが、今後の問題としては、意欲ある若い層の人たちに対する働きかけだと思います。そのような若い人たちは、会社への帰属心は決して強くなく、自分のキャリアを「自分で」決めていく、そういう人たちだと思います。私は、社会人のビジネススクールの教員をしておりますが、若い人は自分で学ぼうと思えば、いくらでも学ぶ方法があります。その結果、今の会社に残って、学んだことをいかしたいという学生が実は半分はいます。しかしもう半分は「この会社では無理」という判断を下して、別の会社にチャレンジしていくという学生もいます。ここでリテンションの視点から見れば、片瀬取締役がおっしゃった「透明性」という点が非常に重要になってきます。一体どういうキャリアの可能性がこの会社に存在するのか、つまりどのようなキャリアプランが存在し、どういう制度が機会としてあるのかを全社員に正しく、透明性を持って説明できるのかどうかです。逆から言えば、自分のキャリアプラン、自分が将来やりたいことや成し遂げたいことが実現できる可能性を可視化することが極めて重要なことだと思います。
加藤:「どこでどう頑張ると、どのようなポジションがあるのか」「どんなやりたいことがあるのか」など、社員の皆さんが将来のキャリアを描きやすい環境を作れるような透明性の高い人事制度を作っていきたいと思います。
吉田:人事制度改定プロジェクトを進めていく過程では、取締役会にも複数回は報告していく予定であり、現在そのたたき台を議論しているところです。登用基準については、点数的な制度を導入して定量的に決めるというのではなく、企業の活力を生み出すためにも事業理解度や、点数では表せない責任感やビジネスセンスといった定性的な評価を大切にしていきたいと思います。そしてそういう過程のなかから選抜された人が、選ばれたという期待と責任の下で、高い目標に向かってアグレッシブに色々な取り組みを進めていく、しかしうまくいかなければ、その選ばれた人を替えていくような制度を考えていく必要があります。従ってまずは当社が目指す理想の人材像を階層毎に明確に定めることが、透明性の観点からも重要だと思っています。
松村:エンゲージメントサーベイ結果から見えてくる当社の強みと問題点を意識しながら、当社の目指す人材の集団を形成するために人事制度改定プロジェクトが進められていることを理解しました。一方で、エンゲージメント向上のためには、従業員の一人ひとりの心に火をつける仕組み作りも重要で、経営陣が社員に寄り添う姿勢をもつことが大切です。
その意味では、今年の春の事業計画検討会におけるエンゲージメントをテーマにしたパネル・ディスカッションも非常に有効だったと思います。そこでは、当社での昇進において男女差があるか、各社員が自身のキャリアパスをしっかり描くことができているか等に関する率直な議論が、経営陣と社員の間で展開されました。そうした場での社員の発言は、会社に対してどのような意識を抱いて仕事をしているかを知る機会となり、エンゲージメント向上のためのヒントも見えてきます。今後もさまざまな施策を着実に進めることで、社員による会社への貢献度が高まることを大いに期待しています。
DEI(Diversity, Equity & Inclusion)に対する取り組みと課題、さらにその先にある人の「相合」について期待することはありますか
松村:当社のDEI戦略は、相合活動と結びついて進められていると思います。そもそも当社の基本戦略は、多様な技術や製品の相合により商品の差別化を追求し、またM&Aによって経営統合した会社の持つ技術を、当社の技術と相合・融合して新しい価値を生み出すことにありますが、こうした技術や製品面での相合活動に加え、この座談会のテーマである人材面での相合活動も非常に重視されるようになってきました。この汐留にあるオフィスの名称について、「ビル」という言葉は用いず、「事業」「技術」「人」という3つの面からの相合を加速させるべく「クロステックガーデン」としていることからも、その意気込みを強く感じます。
このように、当社のDEI戦略は人の相合で新しい価値を生み出すことが目的とされ、例えば、M&Aで統合した会社の社員に関して、やる気のある優秀な人材であれば、出身会社を問わず管理職に登用されています。こうしたことが当社の今後の成長に大きく寄与していくことを期待しています。
片瀬:松村取締役と同じく、M&Aで獲得した新しい有能な人材、かつ新しい文化や発想を持った人材をどんどん取り入れることは、当社の強みだと思います。最近でもミツミ電機出身の方が、半導体事業のトップになるなど、能力本位で人材を活用していると思います。
松村:当社のDEI戦略の観点から私が注目しているのは、執行役員ポストに外国籍の優秀人材が登用されていることです。現在、執行役員20名中2名、また事業執行役39名中4名が外国籍で、そのうち1名は女性です。今後もさらに広く世界各国の拠点からの役員登用が促進され、多様な考え方とアイデアによって、当社グループの企業価値向上が実現することを期待しています。
一方、女性活躍推進については、2020年に会社全体での大規模なセミナーが実施されたことをきっかけに、特に女性社員採用面での努力が功を奏して、当社の国内勤務者における女性社員数が増加していることを評価しています。今年6月末で正社員採用に占める女性比率は16.3%となり、2026年3月期末には同比率を18.5%まで引きあげる目標を掲げています。しかしながら女性活躍推進については課題もあり、例えば女性の管理職比率は3.2%と相変わらず低い状況です。2029年3月期末にはこの比率を8.0%まで引きあげる計画となっているので、確実な施策の実行を期待しています。さらに女性活躍推進に向けた多面的な施策の充実も当社の課題だと感じており、目標の一つとして「なでしこ銘柄」の取得を目指して頂きたいと思います。また先ほどの3層プログラムですが、事業部長候補層には女性が含まれていませんが、本部長候補層の研修であるNLPには、外国人の特別招待者枠に女性1名が含まれ、さらにHIPO層には女性数名が含まれていると伺っており、当社でも、女性活躍の機運は着実に高まっているように感じています。若手女性に対しては、各部署での女性意識向上に向けた取り組みが重要で、女性のやる気を高めることにより、HIPO層で選抜される女性が増え、企業価値向上における女性の活用につながっていくことが期待されます。
芳賀:その点については、松村取締役と同様に感じます。先ほどのサーベイ結果の話に戻りますが、上位職階と係長以下の職階で見解の乖離が大きかったのがDEIの推進です。これは非常に重要な課題です。会社としては、「今の世の中、女性活躍、DEIは分かっています」ということだと思っていても、もしかしたら経営層には、本人たちが意外と気付いていない、つまりアンコンシャスバイアスがまだあるのかもしれません。例えば、敢えて言えば、サムライ・プロジェクトも、客観的にみると、「サムライ」だと男性しかいないのではないかと感じる女性もいると思うのです。
吉田:「サムライ」は、プロジェクト名称を付けた時は、サムライが男性という考えは全くなかったと思います。女性のメンバーもおりますので、定義も含め透明性が大事だと考えます。
加藤:国内の女性活躍推進における課題ですが、管理職の方の意識と、女性社員の方の意識、この2つの意識を大きく変えていく取り組みを進めており、社外取締役の皆様にもご協力をお願いし、これから色々な切り口での社内セミナーを開催する計画を立てています。
管理職の方の意識については、多様な社員と共に働く意義をしっかりと正しく理解して頂くところがポイントになると考えます。メンバーのキャリア相談に対する対応も意識に濃淡があると思いますので、キャリア相談に対する意義付けなどをおこなっていきます。
女性社員の方の意識については、これはどこの会社でもよくある傾向かと思うのですが、マネジメントの立場になることに対して、責任が重くなるのではないかとか、業務が増え長時間労働になってしまうのではないか、マネジメントをする自信がないというような不安を持つ人がいると思います。そうした不安を解消できるよう、会社の体質が変わってきていることや、キャリアアップに意欲がある方が挑戦することで、こんなにいいことがあるというような意義ややりがいを、皆さんと一緒に発信していきたいと思います。
吉田:キャリアについて言えば、女性の海外駐在員を増やしていくことにも取り組んでおり、1年間というごく短い期間でも、海外駐在を経験できるような取り組みを開始しています。これまで当社の場合は、20代後半から30代前半に5年間くらいを1つのタームとして最初の海外駐在員を経験し、2回目に赴任する時はもう少し長く駐在し、その後アッパーマネジメントあるいはエキスパートとして海外と国内をローテーションするというキャリアが一般的です。しかしこのローテーションの場合、「次は5年間海外赴任してください」という話になると、意欲ある女性社員でもライフプランを考慮して、海外の現場を経験する機会を諦めてしまうケースも出ていました。そこでそのような女性に対しても、製造の最前線である海外工場での現場に触れる機会を積極的に増やす工夫として、手始めに赴任期間を1年間限定としてみました。その後、本人が望めば3年でも5年でも駐在を延長します。現に、上海で活躍する女性社員がいますが、小学生のお子さまの育児をご主人に託し、1年限定で赴任しています。こうした取り組みを続けていくことが、女性のキャリアを広げていくことにつながるのではないかと考えています。
人材戦略について、今までの話を振り返って改めて期待することや、他に感じたことをお聞かせください
片瀬:私は当社の強みは、会社全体の目標が非常にはっきりしていて、また社員から見ても自社が成長することが、世の中のためにもなるということが社員に浸透していることだと思います。例えば、当社の環境関連の取り組みである「MMIビヨンドゼロ」というコンセプトを一つ取っても、高成長志向で、且つ世の中のためになることをはっきりと打ち出すことができていますが、このような会社は本当に少ないのではないでしょうか。
一方課題としては、若手まで含めた全社員に対して、大きな会社全体の方向性の下で、自分が具体的にどのように働くのかという動機付けをおこなっていくことが、やはりエンゲージメントとしての要諦だと思います。そして個人や組織が全社目標に対してどう貢献しているのかを経営から適切にフィードバックするプロセスの透明性をどう確立させるかだと思います。そのような努力を続けていけば、この会社が人材をいかし、良い人材を持続的に採用していくということは、これまで以上に十分可能だと思います。ただその時に、世の中の半分は女性なので、意欲ある女性たちを活用しない会社は、私は必ず負けると思います。ぜひ、そういう強い覚悟を持ってDEI推進にも取り組んで頂きたいと思います。
松村:2029年3月期に達成を目指す高い経営目標については、その時期が近づいてきていることや、東京本部が汐留の新オフィスに移転したことなどで、当社の経営がますます攻めの姿勢となってきていることを実感しています。そうしたなか、当社で必要とする人材については、製造業の根幹である技術人材に加え、技術者を束ねて協働しながら事業を推進・強化させていけるようなリーダーシップをもつリーダー人材が求められるわけで、今回開始された人材育成や採用の戦略が着実に進められることを期待しています。また当社での人材確保に向けては、当社製品の魅力やさまざまな貢献についてしっかりと発信することで、働き甲斐を求める優秀な人材を集めることができるのではないかと考えます。DEI推進に関しては、女性社員の意識向上や、人材の多様性確保に向けた働きやすい職場づくりに必要な方策について、社外取締役の立場から積極的に提言していきたいと考えます。障がい者雇用については、当社の社内報に、2026年7月の法定障がい者雇用率 2.7%への引き上げに関する説明、当社での障がい者雇用の実態や活躍ぶり、配慮すべき点が掲載されています。このような情報発信はDEI推進に有効であると評価しています。最後に、当社の人材面での相合活動の一例として、チームビルディング活動をあげたいと思います。これは社員の情熱によって支えられるボトムアップの活動で、当社でかなり浸透してきていると感じています。最近では、2020年に経営統合したエイブリックでの装置トラブル減少を目的とする活動や、カンボジア工場と東京本部の合同でのコンテナ積載率向上を目的とする活動が、優秀事例として選ばれました。出身会社や勤務地を問わず、やる気のある社員同士でのチームビルディング活動が成果をあげていることを大いに評価しており、活動のさらなるレベルアップに期待しています。
芳賀:私からは2点お伝えしたいと思います。
1点目は、将来の人口減少を想定した人材戦略が絶対に必要で、ここはもうAIの活用以外にはないと思っています。既にハーバード大学でグローバルなサーベイの結果を出していて、さまざまな職種、階層でAIの導入により効率性があがったという結果と事例が示されています。そこで分かったことは、長年同じことをしている人よりも、その仕事を始めて年月の浅い人ほど、AIの導入による効率化が高いという結果が出ています。つまりAIは、AI人材と言われるような特別なスキルを有する人が使うものではなく、誰もがExcelやWordを使うように、ChatGPTもツールに過ぎず、どうやって社内でAIツールを早急に使いこなせるようにするかというシンプルな話にはなります。これは、労働人口減少という環境下で非常に重要なスキルになります。
2点目は、やはり若い人の話をよく聞くことです。今の若い人は、特に社会貢献の意識が、非常に強いということを感じます。当社の経営理念は「より良き品を、より早く、より多く、より安く、より賢くつくることで持続可能かつ地球にやさしく豊かな社会の実現に貢献する」ですが、この「より良き品を、より早く、より多く、より安く、より賢くつくる」は手段に過ぎず、目的は「地球にやさしく豊かな社会の実現に貢献する」ことです。しかし社内のメッセージとしては、経営理念はかなり浸透しているとは思うものの、最初の手段の方が強調されているように感じます。若い人が実現したいのは、「地球にやさしく豊かな社会の実現に貢献する」ことであり、当社でこの目的を達成できるということが分かると、若い人にとって非常に魅力的な会社になると思います。そうした社会貢献に対する感度が、一世代前の社員と、若い世代とは全く異なることも、理解しておく必要があると思います。
加藤:本日は、現在取り組んでいる人材戦略に対し、社外取締役の皆様から忌憚のないご意見を頂くことができ、後押しを頂いたと理解しました。しっかりと進めていきたいと思います。
吉田:人材開発の最優先事項は、次世代マネジメント人材が、我々現役世代と同じ目線で事業経営を見ることができるよう、しっかり育成していくことです。そして次世代マネジメント人材が継続的に輩出していくための人材プールをしっかり確保していくことが肝要と考えます。
次に、従業員エンゲージメントサーベイを継続させ、さらにグローバルに展開していくことです。そしてサーベイの結果を正しく見極め、それを当社の持つDNAや強みと結び付けて、具体的な施策を打っていくことが重要だと考えています。
最後に、DEI戦略と人の相合の推進です。当社グループは多様な文化や価値観を持つ10万人の従業員が28の国および地域でものづくりに励んでいます。これは他社にはない貴重な財産であり、大きな強みであると考えていますが、まだ十分には活かしきれていません。人と人を相い合わせて新しい企業文化を創造するところに、私たちの新しい未来が待っているものと確信しています。
本日は幅広く、しかも示唆に富むご意見を頂きまして有難うございました。