CFOメッセージ
更新日: 2024年9月30日
当社は2029年3月期に、売上高2.5兆円、営業利益2,500億円の目標を掲げ、グループ全社で目標達成に取り組んでいます。売上高2.5兆円を達成した際に、営業利益2,500億円が実現可能であることを皆様にお示しするために、従来どおり各事業戦略の執行による成長拡大や収益力向上に取り組むとともに、10%以上の営業利益率というターゲットにこれまで以上にこだわります。
その執行において、入社以来、管理部門、海外駐在、数多くの経営統合等、ハンズオンで事業の現場に関わってきた私の経験の蓄積がいかせると考えます。収益性向上のためには、例えば稼働率が下がっている現場を見たときに、製品在庫数などの指標を瞬時にとらえるなど、現場で得られる定性情報と定量情報を結び付け、課題を把握し解決策を導くことが重要です。現場の情報を吸い上げ、きめ細やかな収益性改善への取り組みを執行してまいります。
中長期的な企業価値向上に向けて、財務戦略・資本政策においては各種財務規律を設定し、徹底した財務体質の強化に取り組み、キャッシュ創出力を大きく向上させます。また、キャッシュ・アロケーション方針を明確に設定することで創出したキャッシュを適切に管理して財務基盤を強化するとともに、投資家の皆様にもご満足いただける株主還元を実施してまいります。さらに、中長期的なポートフォリオの検討にあたっては、ROICをはじめ、資本コストを意識し、収益性によって投資すべき事業を適切に選別します。投資効率の最大化と経営資源配分の最適化を実現し、企業価値・株主価値を高めてまいります。
財務戦略と資本政策
資本効率とEPS成長率
当社グループは、収益性においてROE15%以上、EPS成長率+15%以上(10年間のCAGR)のKPIを掲げ、「財務体質の強化」を基本方針として、効率的な設備投資、資産運用および有利子負債の削減等に取り組んでいます。
2024年3月期の当社のROEは8.1%で前年度から低下となり、15%に向けて再度向上させていきます。ROICは5.3%となり、設定しているハードルレート8%を一時的に下回り、こちらも同様に改善すべく施策を実行してまいります。また、2024年3月期のEPSは133.05円となりました。2029年3月期目標の営業利益2,500億円を達成させ、EPS成長率CAGR15%以上を実現させます。
同時に、オーガニック成長と高いキャッシュ創出力をいかしたグローバル規模でのM&Aによる成長に加え、社会的課題解決に貢献する製品の開発などの新たな事業機会の獲得に一層注力します。このように、収益性と成長性を高め、キャッシュ創出力を最大化し、財務体質をより一層強化してまいります。
キャッシュ創出力
2024年3月期の当社の売上高は1兆4,021億円、営業利益は735億円となりました。売上高は過去最高を更新しましたが、営業利益は前年度比で減益となりました。しかしながら、回収可能性を慎重に判断して設備投資を継続的におこなうことにより、2025年3月期のEBITDAは1,670億円と過去最高を見込みます。ネット有利子負債は2025年3月期は2,150億円を見込んでいます。当社のキャッシュ創出力は着実に向上してきており、事業を拡大しつつも、ネット有利子負債を適正な水準に維持してまいります。
キャッシュ・アロケーションと財務基盤の安全性
キャッシュ・アロケーション
創出した営業キャッシュ・フローは、その50%をオーガニック成長の原資として設備投資に充当してまいります。
残る50%のうち、半分を適切かつ機動的な株主還元に充当したうえで、ネットD/Eレシオ0.2倍の範囲という財務規律の維持を前提に、残りの半分と借入金を用いて、実効性のあるM&Aの実施を積極的に検討してまいります。
設備投資と株主還元
このような中長期的な方針のもと、2024年3月期の設備投資は、更新投資を中心とし836億円となりました。2025年3月期計画については、半導体関連設備への投資などを中心に800億円としています。
また、株主の皆様への利益還元を強化するため、年間配当金については、原則として「連結配当性向20%程度を目処」とし経営環境を総合的に勘案し、継続して安定的な配当を目指しています。
2024年3月期の1株当たり年間配当金は、前期実績40円と同額の40円としました。2025年3月期以降に関しては、今後の利益の成長とともに増配は機動的に検討していく考えです。
今後の株主還元についても、同様の方針で配当と自社株買いを実施してまいります。
財務基盤の安全性
事業の拡大スピードを加速させると同時に、財務基盤の安定性を確保することが最重要事項と考えています。格付については、格付け投資情報センター(R&I)および日本格付研究所(JCR)からA+格と、2つの格付機関から高い評価を受けています。
自己資本比率については、短期的にはM&Aの実施状況により変動する可能性がありますが、中長期的には50%以上を維持し、財務基盤の安定化を目指します。
足元の事業環境
2024年3月期は、当社の見立てと実際の外部環境に差異が生じ、結果的に二度の下方修正をせざるをえない結果となってしまいました。しかしながら、このような局面においても、ボトムをしっかりと切り上げていくことが重要だと考えており、その目標に対しては一定の成果を出し、次の期に向けての備えができたと考えています。
2025年3月期は売上高1兆5,600億円、営業利益1,030億円、営業利益率6.6%を必達の計画としています。プレシジョンテクノロジーズでは、ボールベアリング事業において高付加価値品の客先在庫水準の適正化が進行しており、さらなる市場回復に伴う成長を見込んでいます。また航空機向けのロッドエンド・ファスナーにおいても、航空機市場におけるサプライチェーン問題が解消に向かっています。モーター・ライティング&センシングは、収益性の高い車載モーターでさらなるコンテンツグロースを狙うほか、HDDモーターでの市場回復を捉えます。セミコンダクタ&エレクトロニクスは、経営統合を実施したアナログ半導体事業において、収益性にこだわりながらさらなる事業規模拡大を狙います。アクセスソリューションズは、相合製品、付加価値製品の早期市場投入で、収益性の向上をはかってまいります。
さらなる成長に向けた中期事業計画
2029年3月期の長期目標に向けて、当社はさらなる成長に向けた具体的なロードマップとして2024年5月に新たな中期事業計画を発表いたしました。中期事業計画では、2026年3月期に売上高1兆6,200億円、営業利益1,250億円、2027年3月期に売上高1兆7,300億円、営業利益1,500億円とすることを目標としております。
2029年3月期の2.5兆円の売上高目標はほぼオントラックで、オーガニック成長で約2兆円に達し、2017年に経営統合したミツミ電機と同等規模のM&Aが1件できれば2.5兆円は達成可能だと考えています。
営業利益2,500億円に向けては、高マージンの製品の拡大に注力していきます。ベアリング、モーターに加え、ミネベアパワーデバイスとの統合により当社の8本槍戦略のなかで、従来の3番手の立ち位置から2番手に格上げとなったアナログ半導体等で、高マージン製品に注力した取り組みを実施してまいります。
収益性向上に向けた取り組み
収益性向上活動の一環として、当社は材料費率、工場経費率の削減など徹底的なコストダウンに取り組んでいます。また、固定費の変動費化にも取り組み、柔軟な原価対応力により、収益性を向上させていきます。
さらに、過去数年間、大型案件を含めて、M&Aを多数おこなってまいりましたが、当社の販管費率は11%台から下がっておらず、改善の余地が多分にあると認識しております。販管費の約半分は労務費、次に物流費と業務委託費が続きます。本テーマを重要な経営課題の一つとして捉え、ホワイトカラーの生産性向上、輸送効率の改善等により、販管費率を2%下げることを目標にプロジェクトを推進しています。
何よりこの収益性向上を実現するのは、グループ社員一人一人の力であると強く認識しており、利益率の改善・向上にフォーカスを当てた取り組みを強化していただけるよう、日々私から直接社員に発信しています。
価値創造経営
当社グループは、資本コストを6%程度と推計し、それを2%上回る8%を投資判断における最低限のハードルレートと設定しています。事業ごとの資本コストを把握し、適切な財務戦略を実行することで資本効率の向上に取り組んでいます。売上高2.5兆円、営業利益2,500億円を達成するための支えとして、当社ではROEに加えて事業別の収益管理指標としてROICを用いています。目標とする収益力が資本コストを上回るか否か、事業別の現状と見通しを検証し、研究開発・M&A・事業撤退などをおこなっています。
事業別での収益性改善に向けた取り組み手法としては、ROIC逆ツリーを用いて利益率改善と投下資本の削減に取り組んでいます。各事業ポートフォリオの収益力強化により全社ベースでの投下資本の最適化をはかっています。このような方針のもとに収益力向上に注力しましたが、2024年3月期のROICは5.3%と営業利益の減少もあり、前年度から減少となりました。
今後も持続的成長と中長期的な企業価値の向上への取り組みに沿った事業戦略策定および運営を目指します。資本コストの低減に向けたリスクマネジメントの実践、および製品競争力強化を支える財務戦略を実現することで企業価値向上を実現してまいります。また、ハードルレートを下回る事業については、年2回の経営会議で事業継続性を議論し、事業ポートフォリオの最適化に努めています。
事業ポートフォリオ戦略
事業セグメント別の売上高の成長性とROICに着目し、当社の事業ポートフォリオの現状および将来性を以下のとおり考えています。また、投下資本については、補助金等も活用しながら、効率的な設備投資を実行するとともに、事業セグメント別で在庫などの運転資金を適切な範囲にコントロールすることで、下図に示すA~Dの領域で経営資源の最適化に取り組みます。
プレシジョンテクノロジーズ(PT)
PTは、データセンターの市場回復、自動車のxEV・高機能化による員数増加、高付加価値品を含んだ医療等その他アプリケーションにおける伸長、航空機市場の回復などにより、売上高および収益性の向上を見込みます。継続的な生産性改善により生産能力増強に取り組んでいるなか、ベアリングの生産・販売数量の回復を目指します。当社の中核事業として利益率の向上にこだわってまいります。
モーター・ライティング&センシング(MLS)
MLSは、モーターを柱としてトップライン成長の拡大をはかり、グローバルニッチトップと高い収益性を確保している車載向けでのさらなる成長や、HDD向けの回復によるプロダクトミックスの改善を見込んでいます。電子デバイスでは、サブコア事業であるバックライトに関しては、スマートフォン向け用途は実質的に終息予定ですが、車載向けを主にその他の用途からの収益拡大を狙います。モーターは2027年3月期に10%以上の営業利益率の達成を目指しており、モーターを牽引役として全体での収益性の向上も狙います。
セミコンダクタ&エレクトロニクス(SE)
SEは、コア事業のアナログ半導体事業において、経営統合したミネベアパワーデバイスとのPMI活動を推進し、さらなる成長をはかってまいります。アナログ半導体はベアリングに次ぐ8本槍戦略の2番目の槍として再位置付けし、2029年3月期には営業利益率30%を目指します。サブコア事業の光デバイスと機構部品に関しては、当社の高い生産能力を活用しながら、収益性の向上を狙います。
アクセスソリューションズ(AS)
ASは、相合製品や高付加価値製品を新規に市場に投入することで営業利益率10%を目指してまいります。構造改革等の施策により、M&Aで統合した欧州事業や米州事業などのターンアラウンドを実現して収益性改善をはかってきており、今後も継続していきます。また、車載デバイスによる利益貢献も着実に進行しており、当社が保有するさまざまなソリューションを活用してまいります。
リスクマネジメント
脱炭素化社会へのシフトや地政学リスクの高まりなど、当社を取り巻く事業環境は日々めまぐるしく変化しています。こうした変化に迅速かつ適切に対応するためには、利益の最大化という「攻」に加え、リスクマネジメントという「守」の強化が重要です。
当社は代表取締役会長CEOをリスク管理の最高責任者とし、「リスク管理委員会」においてリスク管理に関する重要な意思決定をおこなうとともに、具体的なリスクと対策を想定し、継続的に状況をモニタリングしています。私はCFOとして、当社の事業環境を認識かつ予想し、個々の事象が当社の事業や業績にどのようなインパクトを与えるのか、リスクや機会の発生可能性、緊急度、影響度も分析検討したうえで、戦略、施策を立て、それらを具体的かつ着実に執行することに注力しています。
当社グループにとって喫緊の課題の一つであるBCP、特に水リスク低減の取り組みについては、洪水、干ばつ等の水リスクの高い拠点の洗い出しをおこなったうえで、重点的に防災マニュアルやBCPの整備、強化を進めています。
また、企業を狙うサイバー攻撃に対する抑止・防止体制の整備も重大課題と捉え、情報セキュリティ推進体制の強化に努めています。具体的な施策として、海外生産拠点を含め全社で日々運用するPCやサーバ群の自動監視および異常検知網を整備し、異常や脅威が報告された際には速やかに対応するインシデントレスポンス体制を敷いています。加えて、当社グループは、脅威分析に対応する専門チームを擁することで、脅威の検知、分析、対策まで一貫して速やかに対応することが可能です。
さらに、各国の経済制裁や輸出管理規制の強化を受け、これらに迅速に対応し、より戦略的に事業展開するために、経済安全保障に関する社内規程の策定等を実施し、経済安全保障上の懸念取引に関するリスク管理をおこなっております。
環境経営
当社はカーボンニュートラルへの挑戦やMMIビヨンドゼロを推進し環境目標を達成するとともに、省電力および革新的な精度向上に資する高品質なベアリングの生産や研究開発、脱炭素電源調達用資金として、2022年11月に当社初のグリーンボンドを発行しました。また近年、当社の海外主力工場を中心に、国内外で再生可能エネルギーの導入に注力しており、今後も持続可能な地球環境の実現に向けた取り組みを一層推し進めていきます。
ステークホルダーとの関わり
投資家や株主の皆様とは、IR部門とともに私自ら多くの面談のご対応をさせていただき、当社のさらなる成長実現に向けた攻めの事業戦略、財務戦略をご説明しています。頂戴するご意見に関して、CEOおよび私COO&CFOが各管理部門や事業部門と機動的に議論し、積極的に経営戦略にいかす風土が醸成されています。一例として当社の重要成長戦略の一つであるM&A戦略に関し、これまでの実績や企業価値向上に関するご質問を受け、2024年3月期の決算説明時にトラックレコードを説明資料として開示しました。
また、人的資本、製造資本、知的資本といった非財務資本への投資を強化し、財務資本と相合させていくことが当社の企業価値および株主価値向上につながると考えています。このような非財務資本を含めた当社の経営戦略についても、投資家の皆様と積極的な対話をおこなっており、2024年7月には機関投資家と社外取締役とのスモールミーティングを実施しました。特に、取締役会でこれまで若干不足していた人的資本に関する議論が増えつつある現状を、社外取締役より投資家の皆様へお伝えさせていただきました。
本統合報告書に関しても、毎年各投資家や株主の皆様とミーティングを実施し、忌憚のないご意見を頂戴することで経営の改善につなげる活動をおこなっています。今後ともステークホルダーの皆様との闊達な意見交換を通じて、企業価値および株主価値の向上を実現してまいります。高い成長性と収益性へのこだわりに邁進するミネベアミツミに今後ともご期待ください。