CEOメッセージ
更新日: 2024年9月30日
15年間の成長とこれからサステナブルな成長に向け、規模から収益性を追求するステージへ
私がミネベアミツミの社長に就任してから15年が過ぎました。2009年3月期連結売上高2,562億円、営業利益134億円に対し、2024年3月期は11期連続で過去最高を更新し、売上高1兆4,021億円、営業利益735億円となり、この15年間で売上高、営業利益ともに5倍以上に拡大しています。
私は経営者として、「経営の本質はサステナビリティ」であることを信念とし、継続的な成長と持続可能性を追求してきました。そのなかでも、この15年間重視してきたのは、特に会社の規模です。何故なら規模拡大が利益拡大につながり、一株当たり利益の向上につながると考えたためです。そして、「相合」というコンセプトのもと、当社グループのあらゆるリソースを掛け合わせ、相乗効果により新たな価値を創造することを目指してきました。27件のM&Aを通してコア事業「8本槍」を核とした多角的な事業ポートフォリオを構築するとともに、一つの事業や市場に依存しないリスク分散を強化し、世界に一つしかない「相合」精密部品メーカーとして成長の基盤を確立することができたと考えています。
このように、事業規模の拡大を追求してきた副次的な理由は、少子高齢化が進む日本のなかでミネベアミツミが持続的な成長を実現していくためには優秀な人材を確保することが重要であり、そのために会社の規模を大きくする必要があると考えたためです。オーガニックな成長とM&Aによる企業規模の拡大と、2023年3月の東京クロステックガーデン(汐留)への移転などのさまざまな取り組みを通して、今後の成長の原動力となる人材の獲得が可能になったと手ごたえを感じています。
当社は長期目標として2029年3月期売上高2.5兆円、営業利益2,500億円を掲げていますが、2025年3月期は売上高1.5兆円を目指す計画となり、2.5兆円の目標は射程圏内に入ったと認識しています。
一方で、営業利益は2024年3月期735億円、形式的(購入支給部品を含む売上を分母とした場合)な営業利益率は5.2%にとどまっており、今後の経営の最重要課題は収益力、利益率の改善だと考えています。現在の当社の業種内での相対的なバリュエーションはまだ低い水準にあり、ステークホルダーの皆様に当社の価値をお認めいただき、企業価値である時価総額をさらに向上していきたいと考えています。そのためには2.5兆円の売上目標は堅持しつつ、収益性について、電子部品業界の一つの基準である営業利益率10%をコンスタントに実現できることをしっかりとお示しすることが必要です。CEOとしてビジョンと戦略を掲げ、COO&CFOである社長の吉田と連携し、様々な施策を強力に推し進めていきます。
今こそ、様々なバックグラウンドを持つグローバル10万人の従業員の力を相い合わせる「相合」によるシナジーの創出を実現し、成長を加速することが急務であると考えています。
2029年3月期の営業利益率10%達成に向けたプロセス
2029年3月期の営業利益2,500億円、すなわち営業利益率10%の必達に向け、経営会議などを通し、全社のメンバーには、2025年3月期計画である営業利益1,030億円は通過点であり、さらなるチャレンジを目指そうと呼びかけ、さまざまな収益改善策を強力に進めています。
生産においては、自動化を推進し、2024年3月期は6,000人、2025年3月期は5,000人の省人化効果を生み出すことを見込んでいます。今後も、徹底的なコスト低減、生産性改善と超精密部品メーカーとしての品質向上を両立していきます。
営業面でも、売上・量だけを追求するのではなく、適正な価格を訴求し、お客様に納得していただく付加価値、品質、サービスを提供するために、DXも活用しながら改善を進めています。
そして、機械・電子部品業界において、高電圧・高電流・高周波・高速が求められるなか、当社は超精密加工技術、大量生産や各要素技術をいかし、コア事業「8本槍」を通して私たちにしかできないものづくりで競争力を強化しています。
従来から当社の収益ドライバーであったベアリングに加え、アナログ半導体、モーターにおいてグローバルなニッチ市場で高いシェアを獲得し、ハイマージンを稼ぎ出す収益の柱が揃っています。そして、長く低収益に苦しんできたアクセスソリューションズも、2024年3月期に営業利益106億円の実績を出し、ついにここまで取り組んできた欧州の構造改革、経営統合によるシナジーが実を結んでいます。これからは後述する8本槍を「相合」した斬新な新製品も市場投入が決まり、なぜアクセスソリューション事業に参入したのか、投資家の皆様によくご理解いただける時期が来たと認識しております。
またかつての当社の最大の収益源であったスマートフォン用LEDバックライトも、有機EL化への技術革新に伴い今はわずかな収益貢献となりましたが、スマートフォンに代わるタブレットや車載用途の開拓に成功し、今後の大幅な利益増加が期待できます。コア事業を強化し、サブコア事業によるボラティリティの影響を最小化する体制を整え、一時的に外部環境の影響を受けたとしても、ボトムを切り上げる強靭さを身につけられたと考えています。
2025年3月期から2027年3月期の中期経営計画において、想定される市場の動向については、自動車業界などで不透明感はあるものの、高級化、電動化が進み、コンテンツグロース(搭載製品増加)により、ベアリング、モーターを中心に世界の自動車生産を上回るペースで成長していきます。また、高収益マーケットであるデータセンター市場、医療市場に回復の兆しが見え始めています。航空機向けは一部サプライチェーンの問題は残るものの、旅客需要は回復基調にあり、環境対応もあり堅調な成長を見込んでいます。半導体事業は現時点では回復途上にありますが、2024年5月2日に経営統合したミネベアパワーデバイスがグループに加わり、ミツミ、エイブリックとのシナジーにより、ベアリングに次ぐ2番目の収益の柱として成長を見込んでいます。当社の事業の多くは装置産業であり、限界利益率も高いことから、生産・販売数量が戻れば収益性も大きく回復してきます。
中期事業計画、長期計画に掲げた営業利益率の向上が不可能ではないことをお示しするために、各市場に回復の兆しが見え始めている2025年3月期は、目標必達のための勝負の年であると考えています。
ミネベアミツミにしかできないものづくり・「相合」で世界に新しい価値を提案する
当社のさらなる企業価値向上のためには、人、技術、事業の「相合」により、シナジーの創出を実現させることが必要です。これまでなかなか社外の皆様にお示しできていなかった「相合」活動において、ついに大きな成果を生み出すことができました。それは、アクセスソリューションズの主力製品であるドアハンドルにおける、「ウィングハンドル」という当社にとって新しい製品です。これまでは、人間の指がハンドルに加える「力」を検出し、処理する技術は実用化されていませんでしたが、今般当社のハンドル、モーター、センサーなどの技術を融合し、タッチしただけでドアの開閉を可能にするこれまでにないシンプルなデザインで自動車設計の自由度を高めることに成功しました。この製品はBMW社に採用いただくことが決定しました。
通常、このような複合的な製品を開発、供給するには各社から部品を集め、すり合わせに長い時間を要することになります。しかし、機械と電子を融合させ、世界に類を見ない幅広い製品ラインナップをそろえる当社だからこそ、常識を覆す新しい発想の高付加価値製品をお客様に提案し、当社の強みである製造力を武器にスピーディーな量産体制を構築し、お客様の期待に応えるボリュームを世界各地で実現させることができるのだと自負しています。
今後も当社にしかできないものづくり・「相合」によって、社会的課題の解決および新しい価値の創出を実現し、高付加製品を生み出していきます。
M&Aにおいてもハイマージン企業をターゲットに
また、これまで当社の成長の原動力になってきた重要な経営戦略の一つであるM&Aにおいても、従来の原則(1.既存ビジネスの強化 and/or 相合が期待できるもの 2.適正価格の徹底)を基本としながらも収益力にフォーカスを当てた戦略に見直しをはかっています。これまではコア事業「8本槍」とのシナジー創出の可能性だけでなく、財務規律を持ち、業績のよくない企業を、適正な価格で購入しターンアラウンドさせることによって経営統合を成功させてきました。しかしながら、これまで規模の拡大を優先し、なかには経営統合によって収益率が一時的に低下してしまっているものがあることもまた事実であると認識しています。今後は、財務規律にこだわりすぎず、M&Aにおいても収益性を優先事項としていく考えです。
市場環境の変化を最小化するリスク分散体制
2029年3月期の長期目標達成に向けて、あえてリスクをあげるとするならば、世界経済や地政学など予期せぬリスクが生じることです。この15年間だけでみても、リーマンショックにはじまる世界経済の変動、天災、感染症、紛争等さまざまなリスクが生じてきました。しかし、当社はこれまでも事業、人材、生産活動等のあらゆる面でリスク分散を進めてきました。例えば、新型コロナウイルスで航空機市場が減速した際は、巣ごもり需要やデータセンター関連が収益を支え、逆に今般データセンター市場が減速した際は、航空機関連事業がカバーするなど、複数の事業、複数の市場がカバーし合うことが当社の事業ポートフォリオのリスクへの強さであると考えています。また、東南アジア、中国、欧米まで広がるグローバルネットワークによって、お客様の求める生産地、ボリュームなどに臨機応変に対応することが可能です。例えば、米中貿易摩擦の影響を東南アジアなど他地域でカバーすることもでき、これによる引き合いも増加しています。機械・電子部品業界は、お客様のオーダーのボリューム、変動にフレキシブルかつスピーディーに対応することが求められますが、「リダンダンシー(冗長性)」を重視し、常にお客様の要求に迅速にお応えする生産体制を整えています。
カーボンニュートラルの取り組み
当社は経営理念に示しているように、会社としてのサステナビリティと地球・社会のサステナビリティの両立を目指し、社会の公器として社会的責任を全うするために、真剣にカーボンニュートラルに取り組んでいます。特に近年では、当社の主力工場であるタイ、フィリピン、カンボジアを中心に、国内外で再生可能エネルギーの導入に注力し、その対応にあたっては、私自らが現地政府に働きかけをおこない、迅速な実現をはかっています。タイでは154MW(170億円投資)、カンボジアのプルサット州で50MW(60億円投資)の太陽光発電事業の取り組みをはじめました。特にカンボジアでは、国内既存工場および将来の工場拡張時の使用電力が100%再生可能エネルギーになる見込です。カーボンニュートラルへの取り組みをより一層強力に推進していくため、2024年6月には定時株主総会で再生可能エネルギーを事業化していくことを定款に追加しました。お客様や地域社会の環境対応に対する要望に応えていくとともに、電源を自給自足することで、コスト低減もはかってまいります。
一人一人の情熱を引き出し、10万人のエネルギーを「相合」する
2029年3月期の長期目標、そしてその先のミネベアミツミ100周年に向けた成長を支えるのは、やはり「人」であり、当社の成長の核である「事業」「技術」の相合を進めるのは、「人」の相合です。
2024年の1月~6月に、日本経済新聞夕刊コラム「明日への話題」に寄稿するなかで、私は新入社員に対して「モーター付き歯車になろう」という言葉を記しました。「歯車」というと、ネガティブなイメージがあるかもしれませんが、モーターを動かすエネルギーは一人一人異なるそれぞれの「情熱」であり、「歯車付きモーター」と呼んでも良いかもしれません。とにかく、社員が目標や志を高く持つこと、つまり「情熱」を持つことが歯車を動かすモーターのエネルギーになり、歯車を動かし、会社や組織を動かすことにつながると考えています。
そして、これからの会社の成長を担う次世代人材が情熱を持って能力を発揮できる環境を整備することが、私にとっての使命であると考え、人材育成活動にこれまで以上に力を注いでいます。これまでの当社の人材教育はどちらかというとOJT中心となっており、体系的かつ効率的な人材戦略や育成方針の策定が課題となっていました。
2024年3月期に、従業員の意識を把握するため、国内主要会社を対象に従業員エンゲージメント・サーベイを実施しました。その結果、次世代に向けた変革や人材育成施策の拡充が課題として明らかになり、これらの対策の一つとして、2023年から準備を進めてきた将来のグループ経営を担う人材の育成体系となる、本部長候補、事業部長候補、ハイポテンシャル若手人材の3つのプールを設け、育成プログラムを開始しました。本部長候補、事業部長候補だけでなく若手人材の研修でも私をはじめトップマネジメントが講義をおこない、当社のDNA、情熱を次世代につなぐ取り組みをおこなっています。
さらに、新たな取り組みとして「サムライ」プロジェクトを導入しました。小売業のニトリ社のご指導もいただき、製造、技術、営業の各分野から、海外工場の経験を豊富に持つマネージャーによるプロジェクトチームを人材開発部につくり、現場の実情を知るメンバーが、海外工場など現場のマネージャークラス・若手の悩みを聞き、解決策をアドバイスできるような体制を構築しています。
また、これらの取り組みを通して次世代を担う人材の発掘・育成をおこなうだけではなく、「Passion=情熱」を持って思う存分に挑戦できる環境を整えるべく、人事制度において評価制度改定などを進めています。当社の人材マネジメント方針においては「対等の精神」が根底にあり、国籍、出身企業などにとらわれず優秀であれば活躍するチャンスがあり、これが多様なバックグラウンドを持つ従業員のモチベーションにつながっていると考えています。